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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)1324号 判決 1948年12月24日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人獅山知孝の上告趣意について。

論旨は、原判示第一の事実に關して、原判決が被告人の所爲を選擧妨害の程度と認定したことを非難している。しかし原判決がその擧示の證據によって認定したところによれば、被告人は、市長候補者の政見発表演説會の會場入口に於て、應援辯士林常治及び望月勘胤の演説に對し大聲に反駁怒號し、辯士の論旨の徹底を妨げ、さらに被告人を制止しようとして出て來た應援辯士馬淵嘉六と口論の末、罵聲を浴せ、同人を引倒し、手拳を以てその前額部を毆打し、全聽衆の耳目を一時被告人に集中させたというのであるから、原判決がこれを以て、衆議院議員選擧法第一一五條第二號(原判決文に「第一號」とあるのは、「第二號」の誤記であること明かである)に規定する、選擧に關し演説を妨害したものに該當するものと判斷したのは相當であって、所論のような誤りはない。假りに所論のように演説自體が繼續せられたとしても、擧示の證據によって明かなように、聽衆がこれを聽き取ることを不可能又は困難ならしめるような所爲があった以上、これはやはり演説の妨害である。又被告人の行爲の原因や意思が所論の通りであったとしても、演説妨害の行爲があった以上その責任を問われるのは當然である。更に被告人の選擧權停止を附隨する罰則を適用した原判決を不當とするのは、結局量刑不當の主張に歸するから、適法な上告理由とはならない。

原判示第二の事実は、右第一の事実の役三〇分後に、被告人は、前記應援辯士として選擧運動をしていた馬淵嘉六に對する餘憤が去らず演説會場に接續する辯士控室に押しかけ、應援辯士林常治を罵り始めこれを制止した馬淵に對して、興奮の餘、手拳を以てその前額部を二回毆打したというのであるから、これはまさしく衆議院議員選擧法第一一五條第一號(原判決文に「第二號」とあるのは「第一號」の誤記であること明かである)にいわゆる、選擧に關し選擧運動者に暴行を加えたものに該當する。これを單なる個人同志の爭いであって選擧の妨害でないとする所論は理由がない。

右の理由により刑事訴訟法第四四六條に從い主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見によるものである。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 河村又介)

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